ウクライナ人ピアニスト
category: 震災 その後
友人宅のホームコンサートに招かれた。
演奏者はスイス在住のウクライナ人ピアニスト、アレナさん。
彼女は18歳のとき、チェルノブイリ原発事故に遭った。
当時、住んでいた場所は原発から60kmの所で
政府が事故を公表したのは、事故から7日が経ってからだった。
7日間、いつもと何ら変わりない生活を送った彼女たちは
大量の放射線を知らぬ間に浴び、
大量の放射線を体内に吸収した。
後に彼女は、自分が白血病に罹っていると知った。
それでも故郷を離れる決心はつかなかったけれど
数年後、自分の娘が同じ病に冒されていると知った時
彼女はスイスに移り住むことを決めた。
身寄りのない外国で、
ピアノだけでは食べていけなかったシングルマザーは
トイレ掃除だろうが落ち葉掃きだろうが
なりふり構わず働いた。
病気と闘いながら働いた。
今も毎日たくさんの薬を飲まなければならない。
体調も、良い日と悪い日の繰り返し。
それでも福島で起こった今回の事故は
アレナさんにとって人ごとではなく
なんとかツテを伝って、郡山に演奏に来たと言う。
協会や小学校、公民館、大学などでミニコンサートを開いた。
来てくれた人が音楽の力で少しでもリラックス出来たら、との願いで。
彼女の演奏には
悲しみがあった。
憤りがあった。
いつくしみがあった。
絶望と希望がないまぜになっていた。
私と同い年のこの演奏家が生きてきた
18歳からここまでの歳月に想いを馳せるだけで
私は胸が潰れそうになった。
彼女の演奏はあまりにも私の想像力を掻き立てるもので
私自身は正直、リラックスは出来なかったけど
自分の中の怒りが前向きな力に変わっていくような
フシギな何かを感じた。
東電にいくら腹を立てても
政府にどれだけイライラしても
相手は痛くも痒くもないのだ。
空々しく聞こえていた
「あなたはヒトリじゃない」が
初めて、実感できた夜。
彼女の未来がどうか穏やかでありますように、と
願ってやまない。